星のティコ 第10話 間一髪

絵本『星のティコ』

◆前回のあらすじ◆

琴立を取り返したティコは町長の昔話を聞かされる。

ティコはコンフェイトで起きた事故で相棒を失った町長、両親を亡くしたロアンの為に、歌を歌う決意をする。そんなティコにロアンは少しだけ心を開き始める。

洞窟の坂道を進んでいくティコとロアン。


ロアン「扉だ。」


ティコ「う、うん。」


扉を発見。


静かに扉を開けるふたり。


僅かな隙間からのぞき込むと、暗い建物の中が見えた。


ティコ「ここは…?」


ロアン「おじさんの言う通りなら、恐らく町長の屋敷の地下だ。」


ティコ「ロアン道わかる?」


ロアン「いや…。私は下っ端の人間だから。屋敷の奥まで入ったことないんだ。」


辺りを見回しながら静かに進むふたり。


ティコ「何か聞こえる!」


ガンガンと遠くから聞こえる物音と叫び声に反応するティコ。


ロアン「何の音だ?」


ティコ「あっちの方から聞こえる。」


物音と叫び声の聞こえる方へ向かうふたり。


ロアン「あの扉からだ。」


扉に近づき耳を近づけるティコ。


プロキオン「出せーーー!!こっから出せーー!!」


ミュー「開けろゴルアアアアアアア!!!」


ティコ「プロキオンの声だ!」


ロアン「本当か?!」


ティコ「プロ…」


ロアン「しーーっ!でかい声出すな。見張りがいるかもしれない。」


ティコ「あ、そ…そうか…。」


扉を開けようとするロアン。


ロアン「ダメだ。鍵がかかってる。」


ティコ「そんな…。」


ロアン「鍵は町長の部屋か…?」


少し考え込んだロアンはティコに言う。


ロアン「私が町長の部屋に行って鍵を探してくる。ティコはその辺で隠れてろ。」


ティコ「えっ!そ、そんな危ないよ。」


ロアン「大丈夫。私一人なら見つかっても言い訳できる。ティコ…あんたが一緒の方が都合が悪い。」


ティコ「そ、そうかもしれないけど…。」


ロアン「じゃあ行ってくる。下手にうろうろするなよ。…もし私が戻って来なかったら、犬を置いて星の世界に帰りな。」


ティコ「戻って来なかったらって…。」


心配そうにロアンを見つめるティコ。


ロアン「いいな。ひとりで帰ったって、もう甘えてるとか言わないから。…それに…舞踊会出られなくなっちゃうだろ?」


ティコ「ロアン…。」


ロアンはティコの元を去っていった。


ティコ「…そんな事言わないでよ…。ロアンに歌聴いてもらえないじゃん…。」


ひとり町長の部屋へ向かうロアン。


ロアン(町長は恐らく崖から落ちた私たちを探し回っている。今がチャンスだ!)


一方、その頃星の界では、ミザールが放送をかけていた。


ミザール「えー天の川地区よりお知らせがあります。歌い手組のティコ君と、指揮者のプロキオン君が行方不明となっております。心当たりのある方は歌い手組ミザールまでお知らせくださいませ。」


放送を終え物思いにふけるミザール。


ミザール「は~~。なんだか今回の舞踊会は落ち着かないわね。こんなんで大丈夫かしら。あ、そうだ。ベガの琴立のアナウンスもしておこうかしら。……ベガ…。なんか変な感じするのよね。いつもならこんな放送だってベガがやっちゃいそうなのに。」


一方、地下道を走って行くロアン。その先に扉を発見。


ロアン「物音も話し声も聞こえない…。…よし。」


恐る恐る扉を開ける。


ロアン「誰もいない…。ここは書斎か…?」


扉は書斎へと繋がっていた。


ロアンの目に壁にかけてある写真が目に入る。


ロアン「これ…若い時の町長か…?今より痩せてるけど…。こっちは子供の頃か?ここは町長の部屋で合ってるのか?鍵…鍵を探さないと。」


周囲を見渡した後、ロアンは机の引き出しを次々あける。


ロアン「ない…。ない…。」


次の引き出しを開けると、沢山の鍵が見つかる。


ロアン「…あ、あった!この中にあるかわからないけど、とりあえず全部持っていくか。」


その時ー。


ガチャ。


町長「………ロアン…?」


ロアン「………!!!」


町長「なに……してるんだ………?」


ロアン「あ…いや……。」


ガシャン!


鍵を落としてしまうロアン。


ロアン「あっ…。」


町長「……………。」


その頃、ロアンの帰りを待つティコ。

ティコ「…結構時間たったよね…?いや…もうちょっと待ってみよう。う、ううん、また甘えてちゃだめだ。で、でもロアンの言った通り下手に動いたら迷惑かけるかもしれない…。」


その時ー。


町長「おーーーい!!どこにいる!!」


ティコ「!!!」


突然地下に響き渡る声にビクッとするティコ。


町長「どこかに隠れてるんだろう?!羽の生えた少年!」


ティコ「ちょ、ちょ、町長だ…。」


震えるティコ。


町長「おとなしくしてたら捕まえないから出ておいで!」


ティコ「じゃ、じゃあ何で網なんて持ってるんだよ…。」


近づいてくる町長との距離を広げようと、静かに移動するティコ。


町長「ロアンが待ってるぞー!いいのか?ロアンがどうなっても!」


ティコ「ロ、ロアン、町長に捕まったの…?い、いや罠かもしれない。でももし本当だったら…。」


その時ー。


ポローン♪


ティコが持っていた琴立の音が鳴ってしまう。


ティコ「あ!や、やばい!」


町長「ん?!そっちか?」


近づいてくる町長。


ティコ「ど、どうしよう…捕まる…。」


行き止まりで追いつめられるティコ。


町長「見ーーつけた!!」


ティコのいた場所に現れた町長。


しかしそこには誰もいなかった。


町長「あ、あれ…?誰もいない…。気のせいだったか…?はあ…。やっぱ疲れてるのかな…。ロアンの言った通り逃げ出しちゃったのか?」


肩を落とし、その場から去っていく町長。


その様子を天井から見るティコ。


そしてその後ろには…。


ベガ「ふう…。間一髪。危なかったわね。」


ティコ「ベ……ベガ…?」





第10話  間一髪

おわり

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