星のティコ 第2話 星に近い街

絵本『星のティコ』

◆前回のあらすじ◆
夜空に輝く『星の界』で、舞踊会『希望の祭典』に向けて練習する星たち。 
ある日ベガは舞踊会で使う琴立をなくしてしまう。ベガに想いを寄せる内気な少年ティコは、琴立を探しに親友プロキオンと共に地上へ向かう。

地上に降り立ったティコとプロキオン。
空はすっかり明るくなっていた。

プロキオン「ふー。もう朝か。」

ティコ「地上ってこんなに遠いんだね。」

ティコは目の前にある絶壁に目を奪われる。

ティコ「す、凄い絶壁…。」

プロキオン「この絶壁の頂上にコンフェイトがあるんだ。」

ティコ「なんでこんな危ないところに…。」

プロキオン「昔コンフェイトは山の中間地点にある街だったんだ。ところがある日隕石が山に落ちてきちゃって。それでこの断崖絶壁が出来上がっちゃったわけ。」

ティコ「街の人達はどうなったの?」

プロキオン「う~ん。そこまではわからない。その事件と、流れ星がよく見えるって事もあって、世界で一番星に近い街と言われてるみたい。」

ティコ「そっか…。」

プロキオン「さあ、早く琴立を探そう。なんとなく匂いがするよ。」

その時、一台の車が通りかかり、ティコ達の前に止まった。

車には60代くらいの夫婦が乗っていた。

おばさん「ぼくー、1人でこんな所で何やってるの?」

ティコ「え…。」

おじさん「観光客かい?」

ティコ「え、あ、その…。」

プロキオンの方をチラッと見るティコ。

するとプロキオンは慌てて四つん這いになり「ワン!ワン!」と吠える。

ティコ「プロキオン…?」

プロキオンは小声でティコに話す。

プロキオン「ティコ、この世界では犬は話せないんだ。あとは頼む、頑張って。」

ティコ「ええっ!そ、そんな…。ど、どうしよう…。」

プロキオン「適当に話合わせればいいから。」

おばさん「お父さんとお母さんは?ぼくもしかして迷子?」

ティコ「あ…。は、はい…。」

おばさん「どこではぐれたの?」

ティコ「えっと………。こ、この山で…。」

おじさん「それは大変だ。ささ、乗りなさい。とりあえずおじさんたちと街に行こう。」

ティコ「は、はい…。」

プロキオン「ふう…。とりあえず良かったね。」

コンフェイトに向かう車内、後部座席でガチガチに固まるティコ。

おばさん「ぼくおとなしいね。名前なんていうの?」

ティコ「ティ、ティコです…。」

おじさん「いくつ?」

ティコ「え、えっと…。えっと…。」

おばさん「そんな緊張しなくて大丈夫よ。きっとロアンより歳下でしょうね。」

おじさん「そうだね。」

しばらく車は山道を走り続け、ようやくコンフェイトの入り口へ辿り着いた。

時刻はお昼を過ぎていた。

おじさん「さ、着いたよ。おじさん達お仕事があるから、ここまでしか送ってあげれないけど。」

おばさん「そこの広場の階段を上がった先に大きな丸い屋根の屋敷が見えるでしょ?そこに入ってすぐの所に受付の人がいるから、その人に迷子ですって言えば大丈夫。」

ティコ「あ、ありがとうございました。」

おじさん「じゃあね。早くお母さんに会えるといいね。」

夫婦はティコ達をおろし、車を走らせた。

プロキオン「ふー。やっと喋れるよ。」

ティコ「つ、疲れた~…。」

ティコはどっさりと地面に膝をつく。

プロキオン「僕も車酔いしちゃったよ…。」

ティコ「う、うん。」

プロキオン「ちょっと休もう…。それにしても小さい街だね。」

ティコ「人もいないね。」

プロキオン「あ、ティコあれなんだろう。」

広場の中心にある大きなガラスドームが気になり近づいていく2人。

ティコ「これ星の紹介だね。」

ガラスドームには星座が描かれていた。

プロキオン「さすが星に一番近い街だけあるね。」

ティコ「綺麗~。僕の星はどこだろう。」

プロキオン「ふう…。ちょっと元気になってきたかも。」

ティコ「車酔い大丈夫?琴立の匂いする?」

プロキオン「うん、微かに…。でもどこかまでは…。とりあえずさっきおばさんが言ってたあのでかい屋敷に行って聞いてみよう。」

ティコ「う、うん。」

プロキオン「ティコまたお願いね。」

ティコ「え、ええ…。ちょ、ちょっと待ってね。心の準備を…。」

プロキオン「早くしないと夜になっちゃうよ~。」

重い足取りでティコはプロキオンと屋敷へ歩いて行った。

そんな2人の様子を、5歳くらいの少女が遠くから見ていた。

街で一番大きな建物にやって来たティコ達。

入ってすぐ、受付と書いたカウンターに30代くらいの2人の女性がいた。
1人は眼鏡をかけた小柄な女性。もう一人は顔にほくろあるの女性だ。

2人の女性「いらっしゃいませ。」

ティコ「あ、あれ…2人…。どっちに聞けばいいんだろう…。」

ほくろの女性「ぼくどうしたの?」

ティコ「あ、その…琴立探してるんです…。」

ほくろの女性「琴立?忘れ物の中にあったっけ?」

眼鏡の女性「ううん。ないみたい。」

眼鏡の女性はカウンター内を探しそう答えた。

ティコ「そ…そっか…。」

眼鏡の女性「お父さんかお母さんは一緒?見つかったら連絡するから、ここにお名前と住所と電話番号書いてくれる?」

ティコ「あ、いや、いいです…。」

ティコはプロキオンを連れて慌てて建物から出る。

建物の外に出た2人。

ティコ「危なかったあ…。」

プロキオン「困ったなー。誰かが自分のものにしてなきゃいいけど。」

ティコ「うん…。」

その時、広場で2人を見ていた少女が現れた。

少女「あ~やっぱり喋ってる~。」

ティコ「え?」

プロキオン「げっ!」

少女「ねえ何でその犬喋るの?」

ティコ「しゃ、喋らないよ。聞き間違いだよ。」

プロキオン「ワン!ワン!」

ティコ「ほ、ほら。」

少女「え~。でもさっき喋ってたの見たよ。ねえ、その犬かして!」

プロキオンを無理矢理引っ張る少女。

プロキオン「ぎゃうっ!」

ティコ「あ、ダメ…」

その時、

「リビアン!」

少女の名前を呼ぶ声が。

振り返ると、掃除用具を持ったポニーテールの少女が立っていた。

リビアン「あ、ロアン。ねぇロアン見て。この犬喋るんだよ。」

ポニーテールの少女の名前はロアン。

5歳くらいの少女はリビアンというようだ。

ロアン「私も見てたけどその犬喋ってなかったよ。その男が1人でブツブツ喋ってただけだ。ほら、掃除の邪魔だしそろそろ暗くなるから帰りな。」

ティコ「ひ、1人でって…。」

リビアン「え~。本当に喋ってたも~ん。」

ロアンはリビアンの背中を押し、その場から帰らせた。

ティコ「あ、あ、ありがとう…。」

プロキオン「ありがとう!助けてくれたんだね。」

ロアン「あんた達観光客?」

ティコ「う、ううん…。ちょっと探し物してて…。」

ロアン「そう…。ここの町長は変わったものが好きだから、その喋る犬のことがばれる前にさっさと出て行った方がいい。」

ティコ「え…。」

それだけ言い残し、ロアンは立ち去って行った。

ティコとプロキオンは、去っていくロアンの後姿を呆然と見ていた。

第2話 星に近い街
おわり

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