◆前回のあらすじ◆
町長から逃げ回り、崖下に転落したティコとロアン。
そこで発見した洞窟の中で、ベガの琴立を持った男と遭遇。勇気を出し、琴立を返してもらったティコ。ふたりは男から町長の過去の話を聞かされる。
男は町長の過去を話し始めた。
男「まだあいつが若かった時だ。
あいつの親が病死して、跡を継いでコンフェイトの町長になった。
人柄は良いけどちょっと頼りないやつでな。先頭に立って引っ張っていくタイプではなかった。
そんなあいつが若くして町長になるだなんて、町中の皆が心配していた。
そんなあいつは一匹のカメレオンを飼っていた。
そのカメレオンが凄いやつでな。色だけじゃなくて、顔までそっくりに変えられる珍しい生き物だった。
そのカメレオンが見たくて、いろんな国から観光客が訪れた。カメレオンはコンフェイトのスターになった。
町長はそんなカメレオンをとても可愛がっていた。商売道具なんかじゃない。一緒にコンフェイトを支えてくれる大事な相棒だった。
そんなある日あの隕石事故が起きた。
爆風で町長の家も倒壊した。
家を空けていた町長は助かった。だがカメレオンは事故が起きてからずっと行方不明。
おそらく亡くなったのだろう。
隕石事故が起きて、俺を含め沢山の住民がコンフェイトから出ていった。町長も周りに言われてコンフェイトを離れる事を考えた。だけどあいつは…。」
町長『あいつが頑張って支えてくれたこの街を離れるなんてできない。
あいつはこの街が好きだったはずだ。
住む人がいなくなれば街は終わる。この街がなくなったらあいつは悲しむ。俺だけでもこの街に残ってなんとかする。俺があいつの為にできる事はそれしかない…。』
男「しかし珍しいカメレオンがいなくなって、街の経営は一気に悪化してな。ただでさえ隕石事故が起きて観光客も怖がって来なくなっちまって。
町長も新しく珍しい生き物を見つけようとしたり、他に人を呼び込む良い案はないかいろいろ試したんだけど、そううまくいかなかった。経営は悪くなる一方だった。
そしてだんだんあいつもおかしくなってきてさあ。金にも心にも余裕がなくなっちまって。どんどん歪んでっちまった。なんだかいつも辛そうな顔して、あんま笑ってるの見なくなったし。」
ロアン「町長…よく屋敷の人達に悪口言われてるんだ。経営状態が悪いのは町長が無能だからとか、空回りな事ばっかやってるとか…。町長は町長なりに何とかしようと頑張ってるのは私も見ていてわかる。それを見て自分達は何もしようとしない、口から出るのは文句ばかりの大人達の話を聞いてると気分が悪い。みっともないって思う…。」
男の話を聞いて、目に涙を浮かべるティコ。
男「どうした?」
ティコ「い、いえ…何も…。」
ロアン「おじさん、私達そろそろ行くね。」
男「ん?ああ、気をつけてな。また会えるといいな。」
ティコ「琴立ありがとうございました。」
男「じゃあな。」
男のもとを去るティコとロアン。
また二人きりになる。
ティコ「あ、あの……。」
ロアン「ん?」
ティコ「そ、その……。」
ロアン「何さ。」
ティコ「…ね…願い事ある……?」
ロアン「願い事?何急に?」
ティコ「そ、その…ロアンも町長さんも辛かったんだろうなって思って…。隕石事故で大切な人達失って…。」
ロアン「…。別に…。」
ロアンはティコに怒鳴った事を思い出す。
ロアン「この間はごめん。」
ティコ「え?」
ロアン「きつく言い過ぎた。この街の事故とか、私の両親が亡くなったとか、皆辛い思いしてるとか、そんなのあんたには関係ないのに…。八つ当たりして悪かった。」
ティコ「う、ううんっ。ロアンの言う通り…僕甘えてたから…。あのまま星の界に戻って友達に助けを呼びに行こうと思ってた…。また友達を危険な目に合わせようとしてた…。」
ロアン「星の界…。」
ティコ「あ…、いやそれは…。」
ロアン「あんた…星の世界から来たの…?」
ティコ「え……。」
固まるティコ。
ロアン「そうなんでしょ?」
ティコ「…う、うん……。」
ロアンの真っ直ぐな目に、ティコは正直に答える。
ティコ「誰にも言わないで…。」
ロアン「わかってる。」
ティコ「星の界で行われる舞踊会があって、地上の生き物たちに希望を与えるお祭りなんだけど…。」
ロアン「その舞踊会で使う琴立を探しに来たんだ?好きな女を助けたくて。」
ティコ「え、いや…。その…。」
ロアン「ふん…。」
ティコ「えっと…。ぼ、僕…歌うの恥ずかしくて…。いつも声小さいって言われてて…。でも自分の声を出すのが…聴かれるのが…恥ずかしくて…。皆に希望を与えるお祭りなのに、そんな事ばかり考えてて…。」
ティコ「でも僕…いつも助けてくれるプロキオンや、練習頑張ってるベガの為に歌おうと思う。…それから苦しんでる町長さんの為にも歌おう思う。ロアンの為にも歌おうと思う。」
ロアン「え……。」
ティコ「だ、だから何か願い事考えてて…。ロアンの願いが叶うように、頑張って歌うから…。」
ロアン「そう。」
ティコから目をそらすロアン。
ロアン「……。私の願い事は叶わないよ。何回も願ったけど。…叶うわけがないし…。」
ティコ「あ……。じゃ、じゃあ他の願い事考えて…。願いが叶うように頑張るから…。だから…。」
ロアン「いいよ。」
そっけないロアン。
ティコ「…う……。」
ロアン「………ティコ……。」
ティコ「……え?」
ロアン「…頑張れよ。歌…聴いてるから。」
ティコ「…う、うんっ。」
第9話 ふたりの約束
おわり
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